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Tom、もし明日「余命半年です」って言われたら、今の仕事とか保険とか、人間関係とか…全部見直すと思わない?

いや、それ、リアルに想像するとゾッとするな。でも正直、自分の人生にどれだけムダがあるかって気づけるチャンスかも。

そうなの。この前読んだがん患者さんの本がさ、びっくりするくらい合理的でさ。「死」と向き合ったからこそ見えた人生の本質って感じで…。

へぇ、興味あるな。それって「感動の闘病記」とかじゃなくて?
「がん」になって、人生の終わりが現実として見えたとき、人は何を思い、何を捨て、何を選ぶのか。本書『がんになってわかった お金と人生の本質』は、経済評論家である山崎元氏が自身の闘病体験を通して見つけた、“お金より大切なこと”と、“お金で解決すべきこと”をリアルに描いた記録です。医療・保険・資産・人間関係…あらゆるものを見直す契機として、「死」は極めて合理的な問いを投げかけてくれます。
がん患者が直面するのは、溢れ返る医療情報と“時間のなさ”です。だからこそ、情報は集めるより「捨てる」視点が重要なのです。
がん治療での実費や制度を明かし、「感情で入る保険」がどれほど非合理かを数字で示しています。貯金があればがん保険はいらないという理由がわかります。
脱毛、身辺整理、仕事の断捨離…。限られた「持ち時間」の中で不要なものを手放すことが、人生を豊かにする近道であることを教えてくれます。

著者 | 山崎 元 |
出版社 | 朝日新聞出版 |
出版日 | 2024年7月19日 |
ジャンル | キャリア・人生設計 |
がんに罹患すると、多くの人はまず必死に情報を集めようとします。ネットで検索したり、本を読んだり、人に聞いたりして「何が正しいのか」「どの治療が良いのか」を見極めようとします。しかし著者の山崎氏は、それこそが最初の落とし穴だと言います。
なぜなら、医療情報は多すぎて、素人には判断できないケースがほとんどだからです。情報が多いほど混乱し、決断が遅れたり、誤った選択をしてしまう可能性もあるのです。
そこで山崎氏が取ったのは、「信頼できる専門家を3人に絞って相談する」という方針でした。これは、利害関係がなく、好意的な立場で、専門的知見を持っている人に限るというルールです。
このように絞ることで、情報が整理され、判断の軸がぶれなくなったと語られています。加えて、国立がん研究センターや診療ガイドラインなど、信頼できる一次情報を自分で調べ、活用しました。
ネットに溢れる「このサプリで治った」「この温熱療法が効く」といった個人の体験談は、統計的には意味がなく、逆に不安や希望的観測を助長するだけです。本人にとっては魅力的に映るかもしれませんが、意思決定において有効な材料とは言えません。また、善意から寄せられるアドバイスも、整理できなければ心の負担になります。
がん患者にとって大切なのは、限られた時間と体力を「判断すべきこと」に集中させることです。そのために、情報を選ぶこと、余計なノイズを排除することは極めて合理的です。信頼できる人に相談し、必要最低限の情報で決断を下す。このシンプルな姿勢が、不安定な状況下での意思決定を支えてくれるのです。
著者は、実際にステージIVのがんを経験しながらも「がん保険には入っていなかった」と語ります。それにも関わらず、医療費の支払いで困ることは一切なかったというのです。この事実が、本書での「がん保険不要論」の根拠になっています。なぜ保険が不要なのか?理由は明快で、健康保険と高額療養費制度が極めて手厚く、実質的な負担が驚くほど少ないからです。
たとえば山崎氏のケースでは、治療にかかった総費用は約235万円でしたが、そのうち実際に支払った医療費は約10万円以下。大半は健康保険組合からの給付でまかなわれたというのです。これを聞くだけで、多くの人が「がんはお金がかかる」という漠然とした不安を持っていたことに気づくはずです。
また、がん保険に入っていた場合、確かに一時金や日額補償が出る可能性はありますが、保険料として支払う金額と比較した場合、それが合理的かどうかは疑問です。保険会社が利益を出している以上、加入者の多くは“損をする”設計になっているのです。「不安への対処」として保険に入るのは、精神的満足のための支出に過ぎない、と山崎氏はばっさり切っています。
本当に必要なのは、制度を正しく理解し、治療に必要な数十万〜数百万円の現金を用意しておくことです。それができるなら、がん保険の加入は合理性に欠ける選択になります。さらに、不要な営業トークに乗せられないよう、保険の相談は“売らない人間”に限定すべきとも述べています。
がん保険は感情で入るものではなく、論理と確率で判断すべき“経済行動”です。実際に罹患した著者だからこそ、その説得力は非常に大きいと言えるでしょう。
がんを経験したことで、著者は多くの「不要なこだわり」から解放されたと言います。その象徴的な例が“髪型”への執着です。抗がん剤治療により脱毛を経験した著者は、当初はウィッグにしようか、帽子にしようかと悩んでいたそうですが、最終的にはニット帽で過ごし、やがて帽子すら不要になりました。
驚いたのは、誰も自分の髪型など気にしていなかったという事実です。この気づきが、服、時計、ガジェット、仕事のやり方、人付き合い…と、あらゆる分野に波及していきます。要するに、「他人にどう見られるか」よりも、「自分が心地よいか」を基準に生きるようになったのです。
持ち物においても、数十万円の高級時計やカメラを手放し、衣類は“夏冬1着ずつ”にまで整理。事務所も閉鎖し、住まいもコンパクトにしました。こうした“断捨離”によって、管理コストや精神的なノイズが激減し、残りの時間を本当にやりたいことに使えるようになったのです。
人間関係も同様で、「自分が会いたい人にだけ会う」「昔話をしにくる人には会わない」といった基準で選別しています。これは冷たく聞こえるかもしれませんが、限られた時間と体力を考えれば、極めて理にかなった選択です。
このように、“自分にとって実はどうでもよかったもの”を明確にすることが、人生の最適化につながるのです。がんという極限状況が、その気づきを加速させました。私たちも日常の中で、「これって本当に必要?」と一度立ち止まって考えてみるだけで、人生の質は大きく変わるかもしれません。
いざという時に頼れる医療専門家や相談相手を、元気なうちから選んでおきましょう。できれば、自分と利害関係のない医師や医療関係者、もしくは信頼できる友人の紹介で探すのが理想的です。
たとえば「国立がん研究センター」や「○○大学附属病院」など、信頼度の高い医療機関の情報をブックマークしておくと安心です。セカンドオピニオンを求める流れや診療ガイドラインの閲覧方法も、一度確認しておくと、突然の病気にも冷静に対処できます。
医療費に備えるために、まずは高額療養費制度の内容を確認しましょう。自分の加入している健康保険組合にどんな給付制度があるか、ホームページで具体的な条件をチェックしてください。
さらに、毎月の保険料に相当する額(例:5,000円)を医療費用の積立口座に自動で貯める設定にすると、自然に備えができます。200万〜300万円の自由に使える貯蓄があれば、標準的ながん治療には十分対応できるという見通しも立てられます。
まずは、自分の部屋やクローゼットの中にある「使っていないのに持っているもの」を10個リストアップしてみましょう。衣類、本、家電、ガジェットなど、過去のこだわりで手元に残っているだけのものは、処分または譲渡してしまって構いません。
同様に、人間関係についても「付き合いで惰性で会っているだけの人」は、LINEやSNSのやりとりから整理を始めましょう。行動のたびに“選ぶ手間”が減ると、時間も気力も、本当に必要なことに集中できるようになります。
実体験に基づいた治療費・保険・終活などの記述が非常に実用的です。特に高額療養費制度や医療保険の実態、必要な備えに関する記述は現実的かつ有益です。ただし、著者の職業的・経済的立場が一般読者と異なるため、完全に汎用的な実用情報ではありません。
文章は平易で親しみやすく、専門的な内容も噛み砕いて丁寧に説明されています。体験記形式で時系列に沿っているため、読者の理解を妨げる構成上の障害もありません。比喩や具体例も多く、特に初心者向けに配慮された表現になっています。
「不確実性下の意思決定」や「持ち時間感覚」など、がん以外にも応用可能な思考法が示されています。ただし、医療制度や保険制度への評価などは日本限定の事情に根ざしており、読者の属性によって参考度が大きく異なる側面があります。
軽妙な語り口とテンポの良い文体で、重いテーマでありながら読み進めやすい作品です。ユーモアや自己皮肉も程よく織り交ぜられ、感傷に傾きすぎないバランスがとれています。長文ながらも読者を飽きさせない工夫が随所に見られます。
がんや保険、経済に関する知見が広く盛り込まれていますが、専門家による体系的解説ではなく、著者の経験と調査に基づいた知識にとどまっています。とはいえ、必要に応じて信頼性の高い情報源(国立がん研究センターなど)に当たる態度が見られ、最低限の裏付けは保たれています。

この本読んでさ、「お金のことは“足りる”ってわかると、急に自由になれる」って思ったよ。

わかる。俺も“がん保険、感情で入ってたな…”って、ちょっと反省したわ。

それに、生活の中にある「どうでもいいこと」に気づくだけでも、かなり変われるよね。

うん。「時間」って資産だなぁって実感した。本気でやりたいこと、やるしかない。
人生には「お金より大切なこと」がある──。けれど、その“大切なこと”に気づくためには、一度立ち止まって問い直す時間が必要です。
がんという極限状態の中で著者が見出したのは、「限りある時間」と「正しい選択」の価値でした。本書が、あなたの人生の優先順位を見直すきっかけになることを願っています。