この記事はで読むことができます。

ねえTom、最近プレゼンのネタが全然思いつかなくてさ…。斬新なアイデアが欲しいのに、出てくるのはどこかで聞いたような話ばかり。

あるある。それ、アイデアが枯れてるってより、引き出しの中身が偏ってるってやつかも。

引き出し? そんなにネタがあれば苦労しないよ…

実はね、最近読んだ本に「アイデアは“借りてきて組み合わせるもの”」って書いてあったのよ。それがまた面白くてさ。
「アイデアを出せ」と言われても、何から始めればいいか分からない。そんなとき役に立つのが、既にある知識を“違う世界”に応用するという思考法。
今回ご紹介する『アナロジー思考』は、アイデアに悩むすべての人に向けて、“借りてきて組み合わせる”発想法を体系的に解説してくれる一冊です。
発想とは無から生み出すものではなく、すでにある構造を借りて組み合わせることだとわかります。斬新なアイデアの正体は、異なる世界の知見を再構成する力にあるのです。
表面的な類似ではなく、構造的な共通点を見抜く力がアナロジー思考の核です。これを意識できるかどうかで、発想の広がりは何倍にも変わります。
遠くから借りるには、「抽象化」の力が必要です。構造や関係性に着目することで、まったく別世界からでもヒントを見つけ出せるようになります。

著者 | 細谷 功 |
出版社 | 東洋経済新報社 |
出版日 | 2011年8月11日 |
ジャンル | スキルアップ・自己研鑽 |
新しいアイデアというと、ゼロから何かを生み出すようなイメージがありますが、実際にはそうではありません。本書で強調されているのは、「既にある構造を別の文脈で応用する」という発想です。つまり、発想力とは「構造を再利用する力」であり、それがアナロジー思考の核にあります。
たとえば、予算管理という抽象的なテーマを「かばんの仕切り方」と比較するケーススタディでは、大括りの管理と小分けの管理が“収納の考え方”と構造的に同じであることに気づかされます。このように、まったく異なる世界の事象でも、本質的な構造に着目すれば応用が可能になります。これは、物事を「構造」で見る訓練がなければできません。
逆に、表面的な特徴に囚われていると、こうしたつながりは見えてきません。構造を再利用するという視点があれば、知識や経験を“点”として消費するのではなく、“線”や“面”として広げて使うことができます。また、この発想法は応用範囲が非常に広く、一度学べばビジネスでも教育でもすぐに活用できます。
だからこそ、本書は「アイデアに詰まる人」ではなく、「知識の活かし方に困っている人」にこそ読んでほしいと感じます。再利用できる構造が見えてくれば、たとえ知識が少なくても、組み合わせで十分に創造性を発揮できます。知識量より“知識の使い方”が大事であることを、この要点は明確に教えてくれます。
発想を広げるには「違う世界から借りてくる」ことが有効だと、本書は何度も強調しています。ここでいう“遠さ”とは、物理的な距離ではなく、文化・業界・分野などの「知識の距離」を意味しています。
たとえば、ビール工場の生産ラインを見て回転寿司の仕組みを発想したように、全く関係なさそうな世界から得た知見の方が、新鮮でユニークなアイデアになりやすいのです。このことを著者は「貸借距離」と呼び、距離が遠いほどアイデアに独自性が出ると述べています。つまり、同じ業界の中でばかり情報収集していると、発想も似たり寄ったりになるリスクがあります。
逆に、異業界・異文化・異分野から学ぶ姿勢を持っている人は、発想の幅も深さも段違いです。本書では、ビジネスに限らず、スポーツや芸術、歴史など多様な分野からの引用例が紹介されており、「他所の世界から学ぶ」重要性が説得力をもって伝えられています。
また、遠くから借りるためには「抽象化」のスキルが不可欠で、これにより「異質なものの共通点」を発見できるようになります。つまり、「何が違うか」ではなく、「何が共通しているか」に目を向ける訓練が必要だということです。この視点を持つだけで、アイデアの元になる情報の量も質も一気に変わります。
日常の中に潜んでいるアイデアの“タネ”は、実は遠い世界の構造を理解することで芽を出すのです。だからこそ、遠くから借りる思考法は、創造性を高めたいすべての人にとって必須の武器になります。
アナロジー思考の本質は、「構造の類似性を見抜く力」にあります。これは、見た目や名前、形といった“表面的な共通点”ではなく、「関係性」や「機能」といった“深いレベルでの共通点”に気づく能力です。本書ではこれを「表面的類似」と「構造的類似」に分けて説明し、後者こそが創造的思考に必要な視点だと説きます。
たとえば、「部屋の整理」と「頭の整理」は、一見まったく違う話に見えますが、どちらも「フレームワークを使って情報を整理する」という構造を共有しています。こうした構造的な共通点に気づけると、異分野同士の比較や応用が一気にしやすくなります。しかし、これにはある種の“訓練”が必要です。
本書ではパズルやたとえ話、図解などを通して、こうした構造的思考を育てる方法も紹介されています。たとえば、図形や言葉の並びから「関係性」を抽出するクイズなどがその一例です。このような練習を繰り返すことで、物事の“型”を見抜く力が養われます。
また、「何が同じで何が違うか」を比較する視点を持つことも重要です。この視点は、問題解決にも応用が利き、複雑な課題に対しても冷静に対応できるようになります。構造を見抜く力があれば、表面的なノイズに惑わされることなく、本質的な判断ができるようになります。つまり、アナロジー思考の真価は「賢さ」ではなく、「見方の訓練」にあるということです。
まず、自分の生活にある“しくみ”や“道具”を一つ選び、それを別の目的に置き換えてみましょう。たとえば「冷蔵庫」は“分類して保存する”という機能があり、これは人材管理やプロジェクトの進行にも応用できます。「どこに何を入れたか」を可視化することで、業務の属人化を防ぐヒントになるかもしれません。
また、「部屋の間取り」を「時間の使い方」に置き換えると、空間の使い方とスケジューリングに共通する構造が見えてきます。こうして「構造を見る視点」を鍛えることで、あらゆる事象が“発想の素材”として見えてくるようになります。
毎日の情報収集の中で、「これ、まったく違う業界で使えないかな?」と意識的に問いかけてみましょう。たとえば、スポーツの戦術をチームマネジメントに応用したり、料理のレシピから業務フローの改善を考えることも可能です。SNSやニュース、趣味の本など、ジャンルにとらわれないインプットこそが“斬新なアイデア”の原材料になります。
さらに、気になった異業種の知見はノートにメモしておき、「どんな場面で再利用できそうか?」と一言コメントを加えると応用力が高まります。この「異世界ノート」が、後に意外な発想を生む貴重な財産になるはずです。
何かを比較するときは、まず「これは何を目的として動いているか?」を考えるようにしましょう。たとえば「コンビニの24時間営業」は「常に選択肢を開いておく仕組み」と捉えることができ、これは教育やECサイト設計にも応用可能です。「便利」と感じる背景にある“構造”や“関係性”を抽出してみると、その本質が見えてきます。
普段から「似てるけど何が違う?」「違うけど何が似てる?」という問いを繰り返すことで、構造的類似性に敏感になります。この習慣が、アナロジー思考を鍛える最高のトレーニングになります。
本書はビジネスや企画、日常生活など幅広い場面でのアナロジー思考の活用法を具体例とともに紹介しており、実用性は高いです。特に「かばんと予算管理」などのケーススタディは、抽象的な思考法を現実にどう活かせるかを明示しています。ただし、方法論がやや抽象的で再現性のあるノウハウとして整理されていない点が一部に見られ、即効性にやや欠けます。
「アナロジー」や「抽象化」といった難解なテーマを、比喩や図解、身近な例で解説しており、読者への配慮が感じられます。しかし、文章において冗長な説明や繰り返しが多く、要点が曖昧になる場面が散見されました。もう少し論理的な構成と明確な章立てがあれば、読者の理解を助けたでしょう。
本書の強みは、アナロジー思考を「ビジネス」「教育」「企画」「言語理解」などあらゆる分野に応用できる汎用的なスキルとして扱っている点です。理論だけでなく応用可能なパターンや考え方の幅を提示しており、職業や業界を問わず有益です。応用例の多様さが、この評価につながっています。
内容の密度が高く、ページごとの情報量も多いため、軽快に読み進めることは困難です。段落構成のメリハリやリズムが弱く、語り口調もやや冗長で、読者に負担をかける印象があります。もう少し簡潔に要点を整理し、視認性を高める工夫があればよかったと感じます。
アナロジーに関する認知科学・哲学的背景を踏まえた構成や、アブダクションなどの概念を紹介する点では、一定の専門的深さがあります。一方、学術書としての厳密性には欠け、実務家向けに内容をやや噛み砕いているため、研究者にとっては物足りない部分もあるでしょう。

まさか「かばん」と「予算管理」がつながるなんて思わなかったな…。

でしょ?「構造が似てる」って視点で見れば、世の中のいろんなことがつながってくるんだよ。

確かに。「遠くの世界から借りる」って考え方、めっちゃ面白い!

うん。今度からネタ切れになったら、とりあえず何か身の回りの構造を見てみることにするわ(笑)
創造力とは、「何もないところから生み出す」ことではありません。すでにある知識や経験を、違う形に再構成することこそが、発想の本質です。アナロジー思考を手に入れれば、あなたの頭の中の引き出しは、無限の発想源に変わります。